挿絵

串田孫一「仏蘭西哲学雑記帖」にみつけた挿絵。右下にS.H./D’après Odilon Redon とある。

 巻末にある挿絵の説明(p.240)には――「パンセ」の挿絵。メルリオ André Mellerio 著《Odilon Redon》中の写真版より初見がペン画に直したもの。――とある。初見――初見靖一=S.H.――とは著者串田孫一のペンネーム。 

そしてこの挿絵が挿入されているのはp.137からの“パスカル『冥想録』の挿絵”という章である。 

「一個の人間が残した文章に、他の人間が挿絵を描くと言ふ心理は極めて複雑であって、同時に興味ある問題である。」

 から始まっているが、 

「……挿絵の描きにくい、若しくは絶対に描けさうにも思はれないものに対して、勇敢にも挿絵を試みた例として、パスカルの「冥想録」の挿絵を挙げる事が出来る。画家はオディロン・ルドンである。……此の「冥想録」を挿絵で埋め尽すと言ふ事が、一時ルドンの烈しい念願となってゐたらしいのである。所が残された絵はたった二枚……」

 で、そのうちの一枚がこの絵。しかも「未だ完成されてゐるとは思はれない。」と言う。絵にはパスカルの文句が記入されているのでどの部分の挿絵かはわかるのだが、その文句に対峙する画家の複雑な心理を思いやる。 

「ルドンは画家としてパスカルに立ち向ってゐて疲労の極に達し、企てた仕事を放棄しなければならなくなった。彼はそれが確かに自分の仕事だと思ひながら、どうしてももう筆を進める事は出来なくなったのである。」

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